スタッフブログ
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- 2026.10.15
脳卒中歩行改善:なぜ「足」ではなく「上(上半身)」に目を向けるべきなのか?
脳卒中の後遺症による歩行障害や姿勢の不安定さに悩む多くの方が、「足の筋力が足りない」「足の麻痺が残っているから歩きづらい」と考えがちです。しかし、リハビリテーションの臨床現場では、「足が悪いのではなく、上(上半身)から崩れている」という現象が頻繁に観察されます。
歩行や立位の安定性を高めるためには、下肢(足)だけでなく、上肢(肩甲帯・腕・手)や体幹を含めた「身体全体の運動システム」として捉え直す視点が欠かせません。本文では、上半身が下肢や姿勢全体に与える影響と、その本質的なリハビリテーションの考え方について解説します。
1. 上肢(腕・肩甲帯)は単なる「おもり」ではない
人の上肢(片腕)の重さは、一般的に体重の約5%に相当すると言われています。例えば、体重60kgの人であれば、片腕だけで約3kg(2Lのペットボトル1.5本分)の重量があります。左右両腕を合わせれば約6kgもの質量が、脊柱(背骨)の上部にぶら下がっている計算になります。
健全な状態であれば、肩甲骨周囲の筋肉(肩甲帯)や体幹が適切に働くことで、この重量を意識することなくスムーズに支え、運動に活用できています。しかし、脳卒中によって上肢のコントロールが困難になると、以下の問題が生じます。
- 麻痺側上肢の弛緩・下垂:筋肉の緊張が低下し、腕の重みがそのまま肩関節や体幹を引き下げる「重り」となってしまいます。
- 過剰な筋緊張(連合反応など):歩行時や動作時に、腕や肩に不要な力が入り、身体を歪ませる原因になります。
このように、上肢のコントロールが失われると、その重みや異常な緊張が全身に対する大きな「外乱(バランスを乱す要因)」として作用し、結果として体幹や下肢の安定性を著しく損なうことになります。
2. 非麻痺側(良い方の足)が不安定になるメカニズム
リハビリの中で「麻痺していない方の足(健側・非麻痺側)も安定しない、力が入らない」と感じるケースは少なくありません。この現象も、実は麻痺側の上肢や体幹の崩れが影響しているケースが多く見られます。
- 肩甲帯・体幹の崩れ:麻痺側の上肢を支えきれず、肩甲帯が下がり、体幹が麻痺側に傾いたり崩れたりします。
- 重心の位置ズレ:上半身が崩れることで、身体の重心位置が非効率な場所へ移動します。
- 下肢への波及:重心が崩れた状態で立とう・歩こうとすると、非麻痺側の足は過剰に踏ん張らざるを得なくなったり、逆に適切な加重ができなくなったりして不安定になります。
つまり、「良い方の足がしっかり動かない」の原因が足そのものにあるのではなく、「上半身の位置が崩れているために、足が正しく機能できる条件が整っていない」という状態に陥っているのです。
3. 「一見、関係なさそうな部位」からアプローチする理由
「歩くためのリハビリ」というと、ひたすら歩行練習をしたり、足の筋トレを行ったりすることをイメージされるかもしれません。しかし、前述の理由から、「歩くために、あえて足ではなく腕や肩甲骨、体幹をアプローチする」というアプローチが極めて重要になります。
- 肩甲帯の安定化:肩甲骨周囲のアライメント(整列)を整え、上肢を適切な位置で保持できるようにします。
- 体幹の再駆動:上半身の重みを支えられるよう、体幹深層筋などの活動を促します。
- 重心移動の円滑化:上半身のブロックが整うことで、下肢にかかる負担が均等化し、足本来の支持性や振り出しやすさが引き出されます。
「足の運動」と「手の運動」を個別のパーツとして切り離して捉えるのではなく、人間の身体は常に連動して動いているという前提に立つことが、効果的なリハビリへの近道です。
4. 全体としての「運動システム」を再構築する
脳卒中のリハビリテーションにおいて目指すべきは、特定の筋肉を強くすることだけではありません。本来、人間が持っている「身体全体の運動システム」をいかに再学習・再構築するかが本質です。
- 局所ではなく全体を見る:「麻痺側/非麻痺側」「上肢/下肢」という二分法に囚われず、全身がどのように協力してバランスを保っているかを評価します。
- 原因と結果を見極める:「歩行時の足の崩れ」が結果であり、その真の原因が「上半身のアライメント不全」にあるならば、原因に対して直接的・戦略的に介入する必要があります。
全身の協調性が向上すると、努力感(無理な力み)の少ないスムーズな歩行が可能となり、日常の動作パフォーマンスや耐久性の向上にもつながります。
まとめ
歩行や立位で足元にやりにくさや不安を感じたときこそ、「上半身(姿勢・肩・腕)がどうなっているか」に一度目を向けてみてください。
「足が悪い」と決めつけず、上肢や体幹を含めた全身のバランスを整えるアプローチを取り入れることで、これまで変化の出にくかった歩行動作にも新しい改善の道筋が開ける可能性があります。身体全体のつながりを意識したリハビリテーションを重ねていきましょう。
ブログ著者

認定理学療法士認定証
脳卒中リハビリテーションセンター
山本 義隆
理学療法士 認定理学療法士(脳卒中)
脳卒中リハビリテーションセンターの山本です。
「もっと動けるようになりたい」「出来るようになりたい」そんなお困りや不安を感じられている方の手助けができるよう、保険外だからこそできる量と質を担保したリハビリテーションを行っております。
患者さま一人ひとりに合わせた最適なリハビリを提供し、「やってよかった」と感じていただけるよう取り組んでまいります。リハビリテーションをご希望の方はお気軽にご連絡ください。
