卒中という言葉の由来をご存知でしょうか?「卒中」は古い言葉で、突然意識を失って(=卒)倒れ(=中)、昏睡状態となるような発作全般のことをさします。その原因は大きく分けて2つ。1つは脳の血管の詰まりによるもの、もう1つは脳の出血とそれによる損傷です。
脳卒中の症状は大きく分けて、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の細い血管が裂けて脳の組織の中に血腫(出血の固まり)をつくる「脳出血」、さらに脳の太い血管にできた脳動脈瘤が裂けて脳の表面に出血する「くも膜下出血」の3種類に分類されます。
医学的に脳卒中は、「脳血管障害」に分類されます。
「脳血管障害」は、突発的な発作が起こらないもの(無症状性脳血管障害)も含んでいるため、厳密にいうと、脳卒中と脳血管障害はイコールではありません。ただし、当院では無症状脳血管障害の患者さまは非常に少ないため、脳卒中と血管障害は同一と考え、以下の説明を行います。
脳に血管障害が起こると、その先の脳細胞に酸素や糖などのエネルギーを送っている血液が充分に行き渡らなくなってしまいます。これらのエネルギーなしに脳は活動できないため、血管障害が起こると脳は活動を止めてしまうのです。このようにエネルギー不足により脳が休んでいる状態を「脳虚血」といいます。この脳虚血状態がある程度つづくと、脳細胞は休むだけでなく最終的に死んでしまいます。

寝たきりとなる原因の第1位(26.3%)は脳卒中。脳卒中は寝たきりの最大の要因を占めています。それ以外の要因として、⾼齢による認知症(23.1%)、⾻折・転倒(11.3%)⽼衰、パーキンソン病等が続きます。厚⽣労働省の2022年の報告では、全国に約717万⼈の寝たきりの⽅がおられ、そのうち約188万⼈の⽅が、脳卒中が原因という報告があります。

「最悪の場合は死を招く場合もありますが、血管の損傷によって血液の流れが止まってしまった箇所がどの部位なのかによって、引き起こされる障害は違ってきます。

| 損傷部位 | 損傷により引き起こされる障害 |
|---|---|
| 前大脳動脈 | 下肢の運動麻痺、無動性無言症(意識はあるが、自発性がなく、魂が抜けたかのようにボーっとしている状態) |
| 中大脳動脈 | 顔面・上肢に強い運動麻痺、左側の場合は失語症(言葉を話すことや言葉の理解ができなくなる状態) |
| 後大脳動脈 |
反対側の同名半盲(両目の半分が見えなくなる)、反対側の感覚性麻痺。 脳底動脈閉塞のレベルによって症状が異なります。 1) 全盲、重度記憶障害、失読(文字を読むことが困難になる 2) 同側顔面の麻痺と反対側四肢麻痺、眼球運動麻痺、舌麻痺 3) 閉じ込め症候群(四肢麻痺・無言により、意思の疎通が瞬きと眼球運動でしかできない状態) |
| 椎骨動脈 | 小脳性失調(体のバランスがとりにくくなる、ふらつきによる夜行困難、呂律がまわらない、嘔気・嘔吐)、同側顔面と対側半身の感覚障害。 |
| 眼動脈 | 失明、一時的な眼動脈の閉塞で片目が突然見えなくなり、しばらくしてゆっくりと改善することもあります。 これは、専門用語で”一過性黒内障”といい、重症の脳梗塞の前兆です。 |