骨髄幹細胞について
脳への再生療法は今後も発展する可能性が大いにある分野で、現在もいろいろな細胞を用いた再生療法の研究がすすめられています。再生医療の多くは基礎研究の段階ですが、一部はすでに臨床応用が始まっています。当クリニックではこの新しい分野である再生医療の、基礎研究が積み重ねられ、安全性が確認され臨床応用された技術だけを採用。脳卒中の後遺症と再発予防に対して、新たな観点で治療を行っています。
脳卒中再生医療センターの骨髄幹細胞をつかった再生医療
当センターで行っている具体的な治療方法をご説明すると。
- まず骨髄から採取した骨髄液から骨髄幹細胞を取り出します。
- 次にこれを培養し、骨髄幹細胞の数を数千万~数億個に増やします。
- そしてそれを静脈点滴注射により体内に投与します。
骨髄中の「間葉系幹細胞」について
間葉系幹細胞とは?
固有の系列に属する何種類かの細胞へと分化することができる細胞です。
骨髄の中には「造血幹細胞」と「間葉系幹細胞」が存在しています。
「間葉系幹細胞」は1972年に、デクスターらが体外で造血幹細胞(血を作る細胞)の維持に必要な細胞として、骨髄中から取り出し培養することに成功しています。ただしこの時は、まだ細胞の名前すらついていませんでした。
- 「骨・軟骨・脂肪」といった細胞に分化する細胞株がみつかる
- 1990年代に入ってからは、骨髄中の細胞から「骨・軟骨・脂肪」といった細胞に分化する細胞株を作り出せるようになります。しかしこの細胞株は、中胚葉から分解してできる細胞の一部であり、完全な自己複製機能を持っているとはいえませんでした。この細胞株は、多分化能を有することができることから「間葉系幹細胞(mesemcymal stem cell)」と呼ばれるようになります。これ以降、「間葉系幹細胞」に関する研究は一気に拡大することになり、1999年にはヒトからも同様の細胞を採取することに成功しています。
- 自己複製機能と固有の系列に分化する「間葉系幹細胞」
- 間葉系幹細胞は、iPS細胞や受精卵やES細胞(どんなものにでも分化する可能性がある細胞)と同じような分化能(いろんな細胞 になる機能)はありません。しかしながら、自己複製機能を持ち、固有の系列に属する何種類かの細胞へと分化することができる優秀で素晴らしい可能性を秘めた細胞だといえます。
間葉系幹細胞が持つ限定的な多分化能に注目!
先ほどお話したように、間葉系幹細胞はES細胞などと違い、どんな細胞にでも分化するというわけではありません。この細胞のすばらしさは、血管や神経など中胚葉由来の細胞になることがほとんどです。そしてこの特質を用い、脳卒中でダメージを受けた血管や神経を修復させるているところが注目されているのです。
間葉系幹細胞ができること
01. 血管の再生
- 最も注すべきは「血管再生」
- 高齢化社会をむかえ、発生率が増える一方の脳卒中。今まで脳卒中に対する医療研究は、脳神経幹細胞を用いたものに力が入れられてきました。中でも期待が集まっているのが「血管再生」に的を絞った再生治療です。 現在行われている血管の再生治療法は、患者様の体内に存在する「間葉系幹細胞」を利用するもの。この治療は、細胞や血管を新たに作る作用を持つサイトカイン(細胞から放出され、さまざまな細胞間情報伝達分子となる 微量生理活性タンパク質)をつかって、血管再生をうながす手法です。
普及が進む間葉系幹細胞をつかった血流改善
最近では多くの病院で、血管が詰まり血行不全を起こした足や心筋・脳などに、間葉系幹細胞を含む骨髄液が投与されています。間葉系幹細胞をつかった治療で、あたらしい毛細血管を作り出し、血流を改善する試みが行われるようになってきたのです。
02. 神経細胞の活性化及び再生
- 壊れた脳細胞周囲の神経細胞に対する働き
- 間葉系幹細胞ができることの一つに、神経幹細胞として働くことがあげられます。この間葉系幹細胞の働きを利用すれば、壊れた脳細胞周囲の脳神経細胞の活性化と再生が期待できます。当院では間葉系幹細胞の投与し、内因性神経の再生を活性化。神経幹細胞をより定着させ、傷ついた神経細胞を再生させる治療を行っています。
今後も研究が進む間葉系幹細胞と神経細胞の関係
現在のところ、投与された間葉系幹細胞が確実に神経細胞になることが実証されているわけではありません。しかしながら間葉系幹細胞と神経細胞には強い関係性が認められています。当院でも間葉系幹細胞を使った神経細胞の活性・再生治療によって、目覚ましい効果を得られた患者さまは数多くいらっしゃいます。間葉系幹細胞が確実に神経細胞に変化するための研究は進んでおり、今後その成果に注目したいところです。
03. 血管の修復
- 脳卒中再発の予防
- そのほか間葉系幹細胞には、「血管の修復」作用も期待できます。これは先ほどの「血管の再生」に近い働きといえるでしょう。ただこの作用は血管の再生とはちがい、すでに脳卒中を起こしてしまった患部に対する働きではなく、今現在多少ダメージはあるものの、脳卒中を引き起こすまでには至っていない弱った血管を、今後脳卒中が起きにくいように修復する。いわば再発の予防といえる作用です。
脳卒中の患者さまの多くが、「また発作が起こるのではないか?」という不安をお持ちなのではないでしょうか。このような患者さまの不安や心配を解消するためにも、脳卒中の再発予防対策は必要です。間葉系幹細胞を使った脳卒中再生医療は、脳卒中の再発予防に有効な方法としても、注目すべき手法といえます。