よく出てくる専門用語を、わかりやすく解説します
脳卒中再生医療では、普段の生活ではあまり聞かない言葉が出てきます。
ここでは前回お話しした、「なぜ私たちは「院内CPC」にこだわるのか」の記事に登場した専門用語をわかりやすく説明したいと思います。
1.継代(けいだい)
一言でいうと
増えた細胞を新しい容器に分けて、さらに育てることです。
もう少しくわしく
細胞を容器の中で育てると、少しずつ数が増えていきます。
しかし、同じ容器の中で増え続けると、細胞がぎゅうぎゅうになり、育つための場所や栄養が足りなくなります。
そこで、増えた細胞をいったん取り出し、新しい容器に分けて、もう一度育てます。この作業を「継代」といいます。
たとえるなら
一つの教室が満員になったため、生徒をいくつかの新しい教室に分けるようなものです。
なぜ大切なのか
継代を行うことで、細胞が育つための場所と栄養を確保できます。
ただし、継代は何度も行えばよいというものではありません。培養期間が長すぎたり、継代の回数が多すぎたりすると、細胞の性質や増える力が変化することがあります。
そのため、継代の回数や細胞の状態を記録しながら、適切に管理する必要があります。
2.PMDA(ピーエムディーエー)
一言でいうと
薬や医療機器、再生医療等製品の品質や安全性などを確認する日本の公的な機関です。
正式な名前
PMDAの正式名称は、「独立行政法人 医薬品医療機器総合機構」です。
英語では「Pharmaceuticals and Medical Devices Agency」といい、その頭文字を取ってPMDAと呼ばれています。
どのような仕事をしているのか
- 薬や医療機器、再生医療等製品の品質を調べる
- 安全に使用できるかを確認する
- 効果が科学的に認められるかを審査する
- 使用後に起きた副作用や問題を調べる
- 医薬品などによる健康被害の救済を行う
注意していただきたいこと
PMDAが公表している資料や考え方を参考にしていることと、医療機関が提供する治療そのものがPMDAに承認されていることは、同じ意味ではありません。
医療機関が再生医療等安全性確保法に基づいて再生医療を提供する場合には、認定再生医療等委員会の審査を受け、再生医療等提供計画を厚生労働大臣へ提出するなど、法律で定められた手続きが必要です。
また、院内で細胞加工を行う場合には、細胞培養加工施設についても所定の手続きが必要です。
3.骨髄穿刺(こつずいせんし)
一言でいうと
骨に専用の針を刺し、骨の中にある骨髄液を採取する医療行為です。
もう少しくわしく
骨の中には、「骨髄」と呼ばれる、血に似たやわらかい組織があります。
骨髄穿刺では、一般的に局所麻酔を行ったうえで、骨盤の骨などに専用の針を刺し、注射器を使って骨髄液を吸引します。
脳卒中再生医療との関係
採取した骨髄液には、間葉系幹細胞・間葉系間質細胞など、培養に使用される細胞が含まれています。
脳卒中再生医療では、この骨髄液を細胞培養の出発材料として使用します。
なぜ採取後の管理が大切なのか
骨髄液の中に含まれている細胞は、生きています。
そのため、採取した後は、次のような工程を適切に進める必要があります。
- 患者さまご本人の骨髄であることを確認する
- 骨髄液が固まらないように管理する
- 骨髄液の状態を確認する
- 必要な細胞を分離する
- 細胞の培養を始める
4.血餅(けっぺい)
一言でいうと
血液や骨髄液が固まってできた塊です。
もう少しくわしく
けがをしたとき、傷口から出た血液が時間とともに固まることがあります。この固まった血液の塊を「血餅」といいます。
骨髄穿刺によって採取した骨髄液にも、血液と同じように、赤血球、白血球、血小板、血液を固める成分などが含まれています。
そのため、採取した後の取り扱いが適切でなければ、骨髄液も固まることがあります。
なぜ問題になるのか
骨髄液が固まると、培養に使いたい細胞が血餅の中に閉じ込められることがあります。
その結果、必要な細胞を取り出したり、細胞を均一に分けたりすることが難しくなってしまいます。
血栓とは違います
- 血栓:主に血管の中にでき、血液の流れを妨げる塊
- この記事でいう血餅:採取した骨髄液が、シリンジや容器の中で固まってできた塊
この記事で説明している血餅は、脳梗塞の原因となる血栓のことではありません。
5.フィブリン
一言でいうと
血液が固まるときにできる、糸のようなタンパク質です。
もう少しくわしく
血液が固まり始めると、フィブリンという細い糸のようなものが作られます。
フィブリンは網目のようにつながり、その中に血小板、赤血球、白血球などを取り込みます。
こうして、血液の塊である血餅が作られます。
たとえるなら
フィブリンは、魚を捕まえる網のようなものです。
フィブリンの網の中に、血液の細胞や骨髄の細胞が取り込まれていきます。
骨髄液の中ではどうなるのか
骨髄液が固まり始めると、培養に必要な細胞もフィブリンの網目の中に閉じ込められることがあります。
そのため、骨髄液を採取した後は、血餅ができないように適切に管理することが大切です。
6.CFU-F(シーエフユー・エフ)
ひとことでいうと
細胞が増えて、細胞の集まりを作る力を調べる指標です。
正式な名前
CFU-Fは、「Colony-Forming Unit–Fibroblast」の略です。
日本語では、「線維芽細胞コロニー形成単位」などと呼ばれます。
どのように調べるのか
骨髄から取り出した細胞を、培養皿の上に少しずつ離して置きます。
増える力を持っている細胞は、細胞分裂を繰り返し、やがて小さな細胞の集まりを作ります。
この細胞の集まりを「コロニー」といいます。
いくつのコロニーができたかを調べることで、細胞が増える力の目安を確認します。
たとえるなら
畑に種をまいたときに、いくつの種が芽を出し、一つの株に育ったかを数えるようなものです。
数が多ければ治療効果も高いのか
CFU-Fが多いからといって、必ず治療効果が高くなるとは限りません。
CFU-Fで確認できるのは、培養皿の上で細胞が増え、コロニーを作る力です。
患者さまの症状がどの程度改善するかを、CFU-Fだけで判断することはできません。
細胞の品質を確認するためには、CFU-F以外にも、次のような複数の検査が必要です。
- 細胞の数
- 生きている細胞の割合(生細胞率)
- 細菌などが混ざっていないか
- 細胞がどのような性質を持っているか
- 細胞表面マーカーなどの検査
CFU-Fは、「間葉系幹細胞の数を直接測る検査」や「治療効果を直接示す検査」ではありません。
より正確には、間葉系幹細胞・間葉系間質細胞系の細胞が持つ、コロニーを作る力を評価する指標の一つです。
用語を簡単にまとめると
継代
増えた細胞を新しい容器に分けて、さらに育てることです。
PMDA
薬、医療機器、再生医療等製品などの品質、安全性、有効性を科学的に審査する公的な機関です。
血餅
血液や骨髄液が固まってできた塊です。
骨髄穿刺
骨に専用の針を刺し、骨髄液を採取する医療行為です。
フィブリン
血液が固まるときに、網目を作る糸状のタンパク質です。
CFU-F
細胞が増えて、コロニーという細胞の集まりを作る力を調べる指標です。
※この記事は、脳卒中再生医療や細胞培養について、一般の方に理解していただくための説明です。実際の治療方法、細胞加工の方法、検査内容などは、患者さまの状態や再生医療等提供計画によって異なります。
