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なぜ私たちは「院内CPC」にこだわるのか

2026.08.06

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骨髄を採取した瞬間から、細胞培養は始まっている

再生医療において、患者さまから採取した骨髄は、単なる「検体」ではありません。
その中には、培養の出発点となる生きた細胞が含まれています。
だからこそ当センターでは、骨髄を採取した後、可能な限り速やかに、管理された細胞加工工程へ移すことを、最も重要な運用原則の一つとしています。

採取した骨髄を、凝固させない。
時間を空けず、速やかに細胞分離へつなぐことが、培養の出発点を守ります。

細胞の品質は、最終検査だけでは守れません

骨髄由来の間葉系幹細胞を培養する過程では、採取方法、抗凝固処理、採取後の時間、温度、取り扱い、培養条件、作業者の技術など、複数の要素が関係します。
ヒトの細胞を原料とする細胞加工物は、原料そのものに個人差があり、製造工程の影響も受けやすいため、完成した細胞だけを検査すれば十分というものではありません。

重要なのは、骨髄を採取した時点から、培養、継代、回収、品質確認に至るまで、一つ一つの工程を定められた手順の中で管理し、記録し、必要な確認を積み重ねることです。
厚生労働省・PMDAの技術的ガイダンスでも、ヒト細胞加工製品では、原料・工程・設備などの変動を工程全体で管理することの重要性が示されています。1

骨髄は、採取後に凝固して血餅をつくることがあります

採取した骨髄液には、間葉系幹細胞だけでなく、血球、血小板、凝固に関わる成分なども含まれています。
そのため、体外へ採取された骨髄液は、適切な抗凝固処理と取り扱いが行われなければ、時間の経過とともに凝固し、血餅を形成することがあります。
骨髄穿刺液が凝固しやすく、血餅形成が骨髄濃縮や間葉系幹細胞の培養を妨げる技術的問題になることは、再生医療分野の学術論文でも報告されています。2

骨髄が凝固すると、間葉系幹細胞が、フィブリンを主体とする血餅の中に取り込まれます。
そうなると、通常の細胞分離操作で必要な細胞を回収することが難しくなり、回収できる細胞数の低下や、培養開始への支障につながります。
ヒト骨髄を用いた実験では、凝固させた骨髄をそのまま処理した群では、凝固していない骨髄と比べて、間葉系幹細胞の指標であるCFU-Fが大幅に減少しました。3

特殊な酵素処理によって、血餅から細胞を回収できる場合も報告されています。
しかし、それは凝固後の救済処置です。
最初から骨髄を凝固させず、採取直後から適切に抗凝固剤を混和し、速やかに分離工程へ進めることが、培養の出発材料を守るための基本になります。

当センターが「採取後のスピード」を重視する理由

当センターが最優先しているのは、骨髄を採取してから、抗凝固、確認、細胞分離を含む管理された工程へ入るまでの時間です。
採取後の時間を短くすることは、骨髄が凝固して血餅を形成する機会を減らし、間葉系幹細胞を速やかに回収するために重要です。

さらに、骨髄を院外へ輸送する場合には、輸送時間、交通事情、温度変化、振動や衝撃、受け渡し、到着確認など、管理すべき項目が増えます。
細胞治療に関わる輸送では、製品ごとの輸送条件の検証が重視されていることからも、輸送そのものが重要な工程であることが分かります。4

輸送中の振動や衝撃も、細胞品質の管理対象です

細胞は生きた構造であり、輸送中に受ける揺れや衝撃は、単なる「移動」ではなく機械的ストレスです。
低温下で浮遊させたヒト間葉系幹細胞に、輸送環境を想定した振動を加えた査読論文研究では、振動の周波数、強さ、曝露時間などの条件によって、総細胞数や細胞生存率が低下しました。
また、低温での保存時間が長くなった細胞ほど、その後の振動による影響を受けやすい傾向が報告されています。8
これは、輸送中の振動や衝撃が、細胞品質に影響し得る変動要因であることを示しています。

ただし、この研究は、培養後に浮遊状態としたヒト間葉系幹細胞を対象としており、採取直後の骨髄液に同じ低下率をそのまま当てはめることはできません。
それでも、細胞を含む材料を運ぶ際には、温度だけでなく、振動、加速度、落下、急停止などの機械的負荷も管理すべきであり、衝撃を緩和する輸送設計が必要です。
院内CPCで外部輸送をなくすことは、このような制御しにくい機械的ストレスを工程から取り除くという点でも大きな意味があります。

骨髄液には、血小板、血球、凝固因子が含まれています。
強いせん断や機械的刺激が血小板や血球に影響を与え得ることは、血液を用いた実験で報告されています。9
一方、通常の輸送振動だけによって、採取直後のヒト骨髄液の血餅形成率が直接上昇することを示した十分な臨床研究は、現時点では確認できません。

したがって、「衝撃を受ければ必ず血餅になる」と断定することはできませんが、急激な衝撃、不規則な振動、抗凝固剤との混和不足や偏りは、凝固管理を不安定にする可能性があるため避けるべきです。
採取後すぐに院内CPCへ移し、安定した状態で抗凝固と細胞分離を進められることは、血餅形成を防ぐうえでも重要な実務上の優位性です。

輸送・待機・受け渡しは、コンタミ管理を複雑にします

外部輸送そのものが、直ちにコンタミネーション(微生物汚染)を引き起こすわけではありません。
密閉性が保たれ、輸送条件が検証され、定められた手順が守られていれば、安全に輸送することは可能です。

しかし、院外へ運ぶ場合には、容器の移動、保管、受け渡し、開梱、到着確認などの工程と、それに関わる人や場所が増えます。
工程や介入が増えるほど、容器の破損や密閉性の逸脱、誤った取り扱い、環境への曝露、交叉汚染など、管理すべき汚染リスクの接点も増えます。

厚生労働省の指針でも、細胞・組織の受入れや移送においては、混同や交叉汚染を防止する措置が必要とされ、開放容器を用いる移送や操作では、汚染を最小限にするための管理と手順を定めることが求められています。7
院内CPCでは、骨髄採取後の受け渡し回数と移動距離を抑え、速やかに管理された環境へ移すことができます。
これは、コンタミネーションの可能性をできる限り少なくするうえで、明確な実務上の強みです。

院内にCPCがあれば、採取した骨髄を車両や宅配便で別施設へ運ぶ必要がありません。
採取室から院内のCPCへ直ちに引き渡し、抗凝固状態や骨髄の性状を確認したうえで、定められた手順に沿って細胞分離を開始できます。

凝固を防ぐこと。
血餅が形成される前に必要な細胞を取り出すこと。
輸送や待機による時間・温度の変動を減らすこと。
輸送中の振動や衝撃による機械的ストレスを避けること。
受け渡しや開梱などに伴うコンタミネーションの機会を減らすこと。

この五つを一つの流れで実行できることが、院内CPCの本質的な優位性です。

院内CPCだから実現できる、4つの一体管理

1.時間の一体管理

採取後、外部輸送を挟まず、院内で細胞加工工程へつなげます。
予定外の待機や到着遅延を減らし、骨髄が凝固する前に抗凝固状態を確認して、細胞分離へ進めます。
採取から処理開始までの流れを、当センターの管理下に置くことができます。

さらに、車両輸送に伴う振動、急制動、落下などの機械的ストレスを回避し、受け渡し、保管、開梱などの工程を減らすことで、コンタミネーションを管理すべき接点も少なくできます。

2.患者さまと細胞の一体管理

採取した骨髄は、患者さまごとに識別され、記録とともに次の工程へ引き継がれます。
診療側と培養側が同じ施設内で連携することで、本人確認、受け渡し、記録確認を一つの流れとして管理できます。

3.医師と培養士の一体管理

骨髄を採取する医師と、細胞を扱う培養士がすぐに情報を共有できます。
採取時の状況や培養中の経過について、必要な連絡や確認を迅速に行えることは、院内CPCならではの強みです。

4.責任の一体管理

細胞培養を単なる外部作業として切り離さず、治療を担う医療機関自身が工程を把握し、記録し、改善を重ねます。
採取から培養、品質確認、投与までを一つの医療として考えることが、当センターの基本姿勢です。

CPCの価値は、設備だけでは決まりません

CPCには、清浄度を管理する設備や培養機器が必要です。
しかし、立派な設備があるだけで、安定した細胞培養が実現するわけではありません。
手順を守る人、細胞の状態を継続的に確認する人、環境や工程の変化に気づく人、そして記録を残して改善につなげる人が必要です。

同じ骨髄を出発材料としても、製造する施設や培養方法によって、得られる間葉系間質細胞の特性に違いが生じ得ることを示した多施設研究があります。5
この研究は、細胞培養では設備の有無だけでなく、培養方法の標準化、担当者の技術、品質管理の仕組みが重要であることを示しています。

当センターでは、院内CPCと専門の培養スタッフを同じ治療体制の中に置き、細胞の観察、培地交換、継代、回収、環境管理、記録、品質確認を積み重ねています。
CPCは単なる「部屋」ではなく、専門職と手順と記録によって支えられる細胞製造の仕組みです。

細胞培養を、治療から切り離さない

当センターは、2012年に骨髄由来細胞を用いた脳卒中再生医療を開始して以来、細胞培養を治療の中心的な工程として考えてきました。
現在は、診療、骨髄採取、院内CPCでの細胞培養、リハビリテーションを連携させる体制を整えています。6

私たちが院内CPCにこだわる理由は、単に「自院に設備がある」と示すためではありません。
患者さまからお預かりした大切な骨髄を凝固から守り、血餅が形成される前に必要な細胞を分離し、できるだけ早く培養工程へつなぐためです。

さらに、外部輸送に伴う時間、温度変化、振動や衝撃、待機、受け渡し、開梱といった変動要因を減らし、細胞への機械的ストレスとコンタミネーションの可能性をできる限り少なくするためです。
そして、医師と培養士が連携し、治療を担う医療機関として最後まで責任を持つためです。

骨髄を凝固させない。
血餅になる前に、必要な細胞を取り出す。
輸送中の振動・衝撃から、細胞を守る。
細胞培養の責任を、治療から切り離さない。

院内CPCは、時間、工程、情報、責任を一つにつなぐための基盤です。
当センターは、この環境を最大限に生かし、患者さまにとってより信頼できる脳卒中再生医療を追求し、日本で最も信頼される脳卒中再生医療センターを目指してまいります。


参考資料・根拠

  1. 厚生労働省・PMDA「再生医療等製品(ヒト細胞加工製品)の品質、非臨床安全性試験及び臨床試験の実施に関する技術的ガイダンス」2016年。ヒト細胞加工製品では、最終製品試験だけでなく、原料・工程・設備を含む品質管理戦略が重要とされる。
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  2. Salamanna F, et al. Bone marrow aspirate clot: A technical complication or a smart approach for musculoskeletal tissue regeneration? J Cell Physiol. 2018;233(4):2723-2732. doi:10.1002/jcp.26065. 骨髄穿刺液は血小板等を含むため凝固しやすく、血餅形成は骨髄濃縮やMSC培養を妨げる技術的問題とされる。
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  3. Wang HX, et al. Easily-handled method to isolate mesenchymal stem cells from coagulated human bone marrow samples. World J Stem Cells. 2015;7(9):1137-1144. ヒト骨髄を凝固させた実験では、未処置血餅群のCFU-Fが非凝固群より大幅に少なく、凝固によりMSC回収が難しくなることが示された。
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  4. European Medicines Agency. Questions and answers for biological medicinal products, Transport validation, updated October 2024. 細胞治療のように輸送の影響を受けやすい製品では、製品固有の輸送データが通常求められるとしている。
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  5. Stroncek DF, et al. Human Mesenchymal Stromal Cell (MSC) Characteristics Vary Among Laboratories When Manufactured From the Same Source Material. Front Cell Dev Biol. 2020;8:458. doi:10.3389/fcell.2020.00458. 同一の骨髄由来材料から培養しても、製造施設・培養方法による細胞特性の差が認められた多施設研究。
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  6. 脳卒中再生医療センター公式サイト「細胞培養室(CPC)」「センター内紹介」「ふくとみクリニック移転開院のお知らせ」。院内CPC、施設所在地、移転・体制に関するセンター公表情報。
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  7. 厚生労働省「ヒト(自己)由来細胞・組織加工医薬品等の製造管理・品質管理の考え方について」2008年、および「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」2011年。細胞・組織の受入れ時には混同・交叉汚染を防止する措置が必要であり、移送や開放操作では汚染を最小限にする管理と手順が求められている。
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  8. Nikolaev NI, Liu Y, Hussein H, Williams DJ. The sensitivity of human mesenchymal stem cells to vibration and cold storage conditions representative of cold transportation. J R Soc Interface. 2012;9(75):2503-2515. doi:10.1098/rsif.2012.0271. 低温下の浮遊ヒトMSCに輸送を想定した振動を加え、条件によって総細胞数と生存率が低下することを示した研究。
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  9. Aursnes I, Vikholm V. On a possible interaction between ADP and mechanical stimulation in platelet activation. Thromb Haemost. 1984;51(1):54-56. PMID:6719389; Wurzinger LJ, et al. Ultrastructural investigations on the question of mechanical activation of blood platelets. Blut. 1987;54(2):97-107. doi:10.1007/BF00321037. 機械的刺激・せん断が血小板の活性化や損傷に関与し得ることを検討した血液実験。骨髄輸送そのものを検証した研究ではない。
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