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医師の僕が脳梗塞になった|右小脳梗塞・歩行障害・リハビリを経験して分かったこと

2026.10.05

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シリーズ「僕が脳卒中再生医療を始めた理由」|第3回・全3回

患者になって初めて分かったこと

僕は長い間、医師として患者さんを診てきました。

救急の現場にもいました。

病気について説明し、患者さんを励ます側にいました。

しかし、ある日突然、その立場が完全に逆になってしまいました。

僕自身が脳梗塞になったのです。

そして、この経験は僕の医療に対する考え方を大きく変えました。

→ 第2回「僕が脳卒中再生医療へ踏み出した理由」を読む

ある晩、パソコンの画面が回り始めました

自宅でパソコンを使って仕事をしていたときでした。

一瞬、めまいを感じました。

疲れているのかな、と思った次の瞬間、パソコンの画面がぐるぐると回り始めました。

医師ですから、すぐに普通ではないと分かりました。

家族を起こし、救急車を呼んでもらいました。

救急隊の方が来たときには、まだ自分で既往歴や症状などを説明できていました。

ところが、そのあとの記憶はほとんどありません。

次にはっきり覚えているのは病院の中です。

検査を受けようとしても、激しいめまいと吐き気がありました。

目を開けるだけで気分が悪くなる。

そこで、看護師さんが僕の身体を支え、処置をしてくださいました。

そして優しく声をかけてくれました。

医師として働いていた頃なら、ごく普通の医療行為だと思っていたかもしれません。

でも、患者になった僕には、その一言が本当にありがたかった。

「患者さんは、こんな気持ちなのか」

初めて実感しました。

医学的な治療だけではありません。

不安で仕方がないときにそばに人がいること。

声をかけてもらうこと。

自分のつらさを分かろうとしてくれること。

それだけで、人は救われることがあります。

患者になって、初めて分かりました。

診断は右小脳梗塞でした

検査の結果は、右小脳梗塞でした。

小脳は、身体のバランスや運動の調節に深く関わっています。

そのため僕には強いめまいと平衡感覚の障害があり、思うように歩くことができませんでした。

脳梗塞では、梗塞した部位が腫れることがあります。

脳は頭蓋骨という限られた空間の中にあるため、強い腫れが起こると脳幹を圧迫するなど、生命に関わる場合があります。

僕もICUで約2週間経過を見ることになりました。

手術を行うことなく脳の腫れは治まり、一命を取り留めました。

でも、「命が助かった」ことと、「元の生活に戻れる」ことは同じではありませんでした。

脳梗塞の後遺症と回復について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

歩けないということ

麻痺が強く残ったわけではありません。

それでも平衡感覚がうまく働かず、歩こうとしてもふらつきます。

まっすぐ歩けないです。

手にも違和感やしびれがありました。

それまで何も考えずに行っていた「歩く」という動作が、突然簡単ではなくなりました。

そして頭に浮かんだのが家族のことでした。

次に浮かんだのが、僕の診察や手術を待ってくださっている患者さんのこと。

そしてクリニックのスタッフのことでした。

「早く戻らなければ」

そう思いました。

ただ、身体は気持ちだけでは動いてくれません。

リハビリをすれば、めまいや吐き気が出ることもありました。

それでも続けました。

もう一度歩きたい。

もう一度手術をしたい。

もう一度患者さんの前に立ちたい。

僕にとって、それがリハビリを続ける大きな目標になりました。

患者さんにとって「目標」がどれほど大切なのか

脳卒中になって、僕はリハビリの意味を改めて考えました。

医療者は、

「歩行訓練をしましょう」

「上肢機能を改善しましょう」

「バランス能力を高めましょう」

と言います。

もちろん大切です。

でも、患者さんの頭の中にあるのは、そんな医学用語ではないことが多いと思います。

「自分でトイレへ行きたい」

「また車を運転したい」

「妻と買い物に行きたい」

「孫を抱きたい」

「仕事に戻りたい」

僕の場合は、

「もう一度患者さんを診たい。手術をしたい」

でした。

だから現在、脳卒中再生医療センターで患者さんとお話しするとき、僕は単に「麻痺を改善しましょう」だけではなく、

「良くなったら、何をしたいですか」

ということを大切にしています。

その答えが、その患者さんにとっての本当の治療目標だからです。

僕自身も脳卒中再生医療を受けました

リハビリを続ける一方で、僕自身も脳卒中再生医療を受けることにしました。

僕はすでに、この治療を患者さんに行っていました。

今度は、自分が治療を受ける側になったのです。

その後、僕の身体機能は回復していき、再び診療や手術を行えるまでになりました。

歩行も改善し、手のしびれもなくなりました。

ただし、ここで誤解してほしくないことがあります。

僕が回復したという一人の経験だけで、「再生医療によって回復した」と医学的に証明することはできません。

脳卒中後の回復には自然経過もあります。

僕はかなり積極的にリハビリも行いました。

年齢、障害部位、重症度など、さまざまな要素も関係しています。

だから、自分自身の経験を治療効果の証明として患者さんに押しつけるつもりはありません。

むしろ医師として重要なのは、

一人の劇的な経験ではなく、治療前後の状態を客観的に評価し、多くの患者さんのデータを積み重ね、結果だけでなく安全性も含めて検証していくことだと思っています。

当センターでは、治療実績や症例紹介も公開しています。

それでも、患者になった経験は僕の医療を変えました

科学的な意味で治療効果を証明することと、患者になった経験から学ぶことは別です。

僕が患者になって確実に変わったことがあります。

患者さんの不安を、以前より想像できるようになったことです。

「もう治らないのではないか」

「家族に迷惑をかけるのではないか」

「仕事に戻れないのではないか」

「また脳卒中になるのではないか」

こうした不安は、医学書を読んだだけでは分かりません、どこにもそんなことは書いてないのです

僕自身も、

「もう一度脳梗塞や脳出血で倒れるわけにはいかない」

という恐怖を持ちました。

僕は医師ですが、脳卒中になったときには患者でした。

そして今も、脳卒中を経験した一人の人間です。

この経験は、現在の僕の診療の大きな土台になっています。

脳卒中再生医療センターをつくっているもの

現在、脳卒中再生医療センターでは、骨髄由来の細胞を用いた脳卒中再生医療と、脳卒中後のリハビリテーションに取り組んでいます。

再生医療は、まだすべてが解明され、誰にでも同じ結果が得られる確立した治療ではありません。

だからこそ、良いところだけを説明するのではなく、限界やリスク、現在の医学で分かっていないことも患者さんにお伝えする必要があります。

現在の治療は、再生医療等安全性確保法に基づく提供計画のもとで行われています。

ただし、ここにも誤解してほしくない点があります。

提供計画が厚生労働省に提出・公開されていることと、治療効果そのものを国が承認・保証していることは同じではありません。

医療機関として、これを曖昧にしてはいけないと僕は思っています。

患者さんには、治療に期待されることだけではなく、限界も知っていただきたい。

そのうえで、

「それでも、この治療について詳しく知りたい」

と思われるのであれば、僕たちは真正面から向き合います。

僕が目指しているもの

僕が目指しているのは、単に再生医療を行う施設ではありません。

脳卒中になった患者さんが、

「ここなら自分のことをきちんと見てもらえる」

「まだできることがないか、一緒に考えてもらえる」

と思える場所にしたい。

治療する医師としての視点。

脳卒中を経験した患者としての視点。

そして長年、脳卒中再生医療に取り組んできた医療機関としての責任。

この三つを持って、一人一人の患者さんに向き合っていきたいと思っています。

僕が脳卒中再生医療を続けている理由は、決して「新しい治療だから」ではありません。

脳卒中によって突然人生を変えられてしまった患者さんに、

「今の自分にできることは、本当にもう何もないのだろうか」

と一人で悩み続けてほしくないからです。

治療を受けるかどうかは、状態を確認し、十分な説明を聞いたうえで決めることです。

その前にまず、

「自分にはどんな可能性があるのか知りたい」

そこからでいいと思います。

父が脳出血になったとき、僕はまだ中学生でした。

その僕が医師になり、脳卒中再生医療を始め、そして自分自身も脳梗塞を経験しました。

振り返れば、ずっと「脳卒中」という病気が僕の人生のそばにありました。

だからこそ、これからも僕はこの病気と正面から向き合っていきたいと思っています。

それが、脳卒中再生医療センターをつくった理由であり、僕がこの医療を続けている理由です。

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脳梗塞や脳出血の後遺症について詳しく知りたい方は、まず現在の状態や、どのような治療の選択肢があるのかを正しく理解することが大切です。

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  1. 第1回:僕が脳卒中再生医療を始めた原点
  2. 第2回:「治療してほしい」という人がいる
  3. 第3回:医師の僕が脳梗塞になった

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