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脳梗塞後の手足のしびれはなぜ起こるのか?

2026.09.08

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脳梗塞のあと、

「手がずっとジンジンする」
「足の裏に何か一枚はさまっているような感じがする」
「触られているのは分かるけれど、左右で感じ方が違う」
「冷たいものを触っても、冷たさがよく分からない」
「何も触れていないのにピリピリする」

このような「しびれ」を訴える患者さんは少なくありません。

麻痺で手足が動きにくくなることは比較的イメージしやすいと思います。

ところが、

「脳の血管が詰まったのに、どうして手や足がしびれるのですか?」

と聞かれることがあります。

結論から言うと、脳梗塞後のしびれの多くは、手や足そのものに問題が起きているのではありません。

脳梗塞によって、手足から送られてきた感覚を受け取る脳の部分や、その情報が通る神経の経路が傷つくために起こります。

2019年に脳梗塞患者101人を調べた研究でも、感覚障害と、一次・二次体性感覚野や島皮質などの梗塞部位との関連が確認されています。[1]

私たちは「手」で感じているわけではありません

例えば、右手で冷たいコップを持ったとします。

右手の皮膚では、

  • 「冷たい」
  • 「硬い」
  • 「つるつるしている」

といった情報を受け取ります。

しかし、右手だけで「これは冷たいコップだ」と判断しているわけではありません。

手で受け取った情報は神経を通り、脊髄、脳幹、視床などを経て大脳へ送られます。

そこで初めて脳が、

  • 「冷たい」
  • 「触られている」
  • 「痛い」
  • 「指がこの位置にある」

と認識します。

つまり、私たちは手で触っていますが、最終的に感じているのは脳なのです。

脳梗塞では「感覚の通り道」が傷つくことがあります

脳梗塞とは、脳の血管が詰まり、その先の脳組織へ十分な血液が届かなくなる病気です。

もし梗塞した場所が、

  • 視床
  • 内包
  • 脳幹
  • 体性感覚野
  • 島皮質
  • それらをつなぐ神経線維

などであれば、手足から送られてきた感覚情報を正確に処理できなくなることがあります。

その結果、

  • 「触っているのに分かりにくい」
  • 「何も触っていないのにジンジンする」
  • 「熱い、冷たいが分かりにくい」

といった症状が現れます。

「しびれ」といっても一種類ではありません

患者さんが「しびれる」と表現される症状には、実はいくつもの種類があります。

  • 「触っても分かりにくい」
  • 「ジンジンする」
  • 「ピリピリする」
  • 「手袋をしているような感じがする」
  • 「足の裏に厚い板が一枚あるように感じる」
  • 「熱い、冷たいが分からない」
  • 「手足がどこにあるのか分かりにくい」
  • 「軽く触られただけなのに痛い」

これらは医学的にはすべて同じではありません。

触覚、温度覚、痛覚、振動覚、位置覚など、私たちには複数の感覚があります。

脳梗塞では、その一部だけが障害されることもあります。

なぜ右の脳梗塞で左手足がしびれるのでしょうか?

大脳の脳梗塞では、多くの場合、梗塞した脳とは反対側の手足に症状が現れます。

右大脳の脳梗塞

左手足のしびれや麻痺

 

左大脳の脳梗塞

右手足のしびれや麻痺

これは、運動や感覚に関係する神経経路の多くが途中で左右を交差するためです。

ただし、脳幹梗塞などでは顔と手足で症状の出る側が異なる場合もあります。

そのため、「右がしびれているから左脳」と症状だけで単純に決めることはできません。MRIやCTで梗塞部位を確認することが重要です。

感覚が悪いと「動くのに使いにくい」ことがあります

手足を上手に動かすためには、筋力だけでは足りません。

例えば、私たちは目を閉じていても、

  • 「肘がどのくらい曲がっているか」
  • 「指がどの方向を向いているか」
  • 「足が床についているか」

をある程度感じることができます。

これを支えているのが位置覚や固有感覚です。

この感覚が脳梗塞によって障害されると、

  • 手は動くのにコップをうまく持てない
  • 必要以上に強く握ってしまう
  • 足は動くのに歩行が不安定になる

ということがあります。

つまり、「手が動く」と「手が上手に使える」は同じではありません。

この問題については、第2回
「なぜ脳梗塞後、手は動くのに感覚が戻らないことがあるのか?」
で詳しく説明します。

「感覚がない」のではなく「変な感覚が出る」こともあります

脳梗塞後には、感覚が鈍くなるだけではありません。

  • 「一日中ピリピリする」
  • 「電気が走るように感じる」
  • 「焼けるような痛みがある」
  • 「冷たいものを触ると痛い」
  • 「洋服が触れるだけで痛い」

ということがあります。

特に痛みが強い場合には、正式には
中枢性脳卒中後疼痛(Central Post-Stroke Pain:CPSP)
と呼ばれる神経障害性疼痛を考える必要があります。

ここでは医学用語として「脳卒中後疼痛」という名称を使いますが、もちろん脳梗塞のあとにも起こります。

詳しくは第5回
「脳梗塞後、触ると痛い・冷たいものが痛いのはなぜ?」
で説明します。

脳梗塞後のしびれは治るのでしょうか?

これは本当によく聞かれる質問です。

答えは、

「改善する患者さんはいます。しかし、どの程度改善するのか、どのくらい時間がかかるのかには大きな個人差があります。」

です。

脳梗塞患者を12か月追跡した研究では、体性感覚障害は時間とともにかなり改善する傾向が確認されていますが、すべての患者さんで完全に正常化するわけではありません。[1]

「3か月だからもう終わり」「半年だからもう戻らない」と、一つの期間だけで判断することはできません。

詳しくは第3回
「脳梗塞後のしびれは治るのか?」
で説明します。

脳卒中再生医療センターで大切にしていること

同じ脳梗塞でも、後遺症は一人ひとり違います。

同じ「右手がしびれる」という患者さんでも、

  • どこに脳梗塞が起きたのか
  • 触覚なのか
  • 温度覚なのか
  • 位置覚なのか
  • 異常感覚なのか
  • 痛みなのか
  • 運動麻痺はどの程度なのか

によって状態はまったく違います。

私たち脳卒中再生医療センターでは、単に「歩けるか」「手が上がるか」だけではなく、画像所見、運動機能、感覚障害、発症からの期間、これまでのリハビリテーションなども含めて患者さんの状態を考えることを大切にしています。

脳梗塞の後遺症を理解するには、麻痺だけを見ていてはいけません。

患者さんが感じている「しびれ」にも、その患者さんの脳で何が起きたのかを考えるための大切な情報があります。

突然、新しいしびれが出た場合は別です

これは非常に重要で、必ず覚えていてほしいことです。

脳梗塞後に以前から続いているしびれと、突然新しく出現したしびれは分けて考えなければいけません。

  • 「いつもと違う」
  • 「突然しびれが強くなった」
  • 「しびれと同時に力が入らなくなった」
  • 「ろれつが回らない」
  • 「言葉が出にくい」
  • 「顔までしびれる」

という場合には、脳梗塞の再発や一過性脳虚血発作(TIA)などを考える必要があります。

この場合は、後遺症だと自己判断せず、速やかに救急医療機関へ相談してください。


今後予定している、脳梗塞後のしびれ・感覚障害シリーズ

  1.  脳梗塞後の手足のしびれはなぜ起こるのか?
  2.  なぜ脳梗塞後、手は動くのに感覚が戻らないことがあるのか?
  3.  脳梗塞後のしびれは治るのか?
  4.  脳梗塞後のしびれ・感覚障害にリハビリは本当に効くのか?
  5.  脳梗塞後、触ると痛い・冷たいものが痛いのはなぜ?


参考文献

  1. Kessner SS, et al. Somatosensory Deficits After Ischemic Stroke.
    Stroke. 2019;50:1116-1123.
    Published: May 2019.
    脳梗塞患者101人を急性期、3か月、12か月で評価し、感覚障害と梗塞部位・経過を検討した研究。
    PubMedで論文情報を見る

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