脳卒中コラム

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脳梗塞のしびれとは?手足に残る後遺症の3つのタイプと向き合い方

2026.10.10

脳梗塞のコラム

脳梗塞の後遺症として現れるしびれは、多くの患者様を長く悩ませる症状です。手足がジンジンする、膜がかかったように感じる、何も触れていないのに痛む——その現れ方は人によって大きく異なり、周囲に理解されにくい苦痛でもあります。しびれの程度や回復の経過には個人差がありますが、その仕組みを知り、ご自身に合った対処法を専門家と一緒に探していくことで、日常生活の困りごとを減らしていくことは目指せます。

本記事では、脳梗塞後のしびれが起こる仕組み、しびれの種類、強い痛みを伴う中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)、回復の考え方、日常生活での工夫、そして新たに現れたしびれに注意すべきケースまで、全体像をわかりやすくまとめています。それぞれのテーマをさらに詳しく知りたい方のために、当センター院長が執筆したブログ記事もあわせてご紹介します。

【すぐに119番を】突然、片側の手足にしびれや力の入りにくさが出た、ろれつが回らない、顔の片側がゆがむ——このような症状は、脳梗塞(または再発)の可能性があります。様子を見ずに、迷わず119番通報してください。症状がすぐに治まった場合も同様です。

脳梗塞の後遺症の全体像については、〈脳梗塞の後遺症とは|症状の種類とタイプ別の違いを医師が解説〉をご覧ください。

脳梗塞の後遺症でしびれが起こる理由

脳梗塞後のしびれは、手足そのものではなく、脳の中で起きている変化によって生じます。まずはその基本的な仕組みを確認しておきましょう。

感覚伝導路と脳梗塞の関係

手足で触れたものの情報は、末梢神経から脊髄・脳幹・視床を経由し、大脳の感覚野まで届けられます。この通り道(感覚伝導路)や終着点が脳梗塞で傷つくと、届くはずの情報が途中で途切れたり、正しく処理されなくなったりします。情報が完全に途絶えれば感覚はなくなりますが、一部だけが届く中途半端な状態になると、それが「しびれ」として感じられます。

しびれが起こる仕組みについては、院長ブログ〈脳梗塞後の手足のしびれはなぜ起こるのか?〉でさらに詳しく解説しています。

しびれの感じ方と種類|手足に出る感覚障害

「しびれ」という一つの言葉で表現されていても、その中身は人によって異なります。ご自身のしびれがどのタイプに近いかを知ることは、医師に症状を正確に伝えるうえで役立ちます。

しびれは大きく3つのタイプに分けられます

院長が診療の中で患者様にご説明している分け方をもとに、脳梗塞後のしびれを大きく3つのタイプに整理します。

1つ目は、感覚が鈍くなるタイプです。触れた感じがぼんやりする、手袋越しに触っているよう、物に触れても何に触れているのかわかりにくい、といった状態です。触った感覚と、熱い・冷たいといった温度の感覚はそれぞれ別の感覚のため、「触れているのはわかるのに、熱さや冷たさはわかりにくい」ということもあります。温度がわかりにくい場合は、やけどに注意が必要です。

2つ目は、ジンジン・ピリピリとした不快な感覚を伴うタイプです。感覚の情報が一部だけ届く状態で、触れたり動かしたりしたときに、不快感や痛みとして感じることがあります。

3つ目は、何も触れていないのに痛みが続くタイプです。この場合は、次章で解説する「中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)」の可能性があります。

ただし、これらのタイプははっきり分かれるとは限らず、複数が同時に現れることもあります。「触れたときに痛むのか、何もしなくても痛むのか」を医師に伝えることが、原因を見極める大切な手がかりになります。

手足のしびれが日常生活に与える支障

手足のしびれが日常生活に与える支障は、その部位によって異なります。

手にしびれがある場合、ボタンかけ、細い箸の操作、小銭を取り出すといった細かい動作(巧緻動作)が困難になります。感覚が鈍いだけでなく、感覚過敏がある場合は、少しの刺激でも痛みを感じるため、そうした作業を避けるようになってしまうことがあります。

足のしびれは、転倒にもつながるため注意が必要です。足の裏で地面を踏んでいる感覚がつかみにくくなるため、歩く際に不安定感を覚えます。足裏がふわふわしている感じがしたり、着地のたびにピリッと痛みが走ったりすることで、歩く恐怖感が生まれることもあります。転倒のリスクが高まり、行動範囲が狭まってしまう方も少なくありません。

脳梗塞の発症部位と症状の関係性

脳梗塞の発症部位と症状が出現する側の関係も、ご理解いただきたい重要なポイントです。通常、脳の左側にダメージが起こった場合は右側の手足に、右側にダメージが起こった場合は左側の手足にしびれが現れます。これは手足と脳をつなぐ感覚の通り道が、途中で交叉(こうさ)するためです。麻痺が左右どちらに出るかとの関係については、〈脳梗塞の麻痺とは?左半身麻痺と右半身麻痺の違いと回復の6段階〉で詳しく解説しています。

ただし、脳梗塞の位置によっては例外も存在します。脳幹と呼ばれる部位の梗塞では、顔と手足で左右が異なる複雑なパターンが起こることもあります。このような複雑な症状についても、医師による詳細な診察と検査を通じて正確に診断されます。

しびれの症状における個人差と変化

しびれの症状は個人差が非常に大きいという点に注意が必要です。同じ部位に同じ程度の梗塞があったとしても、患者様によって感じ方は全く異なることがあります。また、時間とともに症状の質が変わることも珍しくありません。

強い痛みを伴うしびれ|中枢性疼痛(視床痛)とは

脳梗塞の後遺症のなかでも、特に患者様を苦しめるのが「中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)」です。脳の中で痛みを処理する仕組みそのものが変化することで起こる痛みで、一般的な痛みとは性質も治療の考え方も異なります。

CPSPの特徴

CPSPでは、焼けるような痛み、電気が走るような痛み、締め付けられるような痛みなどが現れます。何もしていないのに痛みが続くことがあるほか、服が触れる、冷たいものに触れるといった本来は痛くない刺激で強い痛みを感じることもあります。痛みは数値や画像に表れにくいため、周囲に理解されにくいことも大きな負担になります。

「痛みは数値に出ません。ご本人が痛いと言えば、それは痛いのです。だから脳卒中の痛みは難しいのです。」

発症から時間がたって現れることも

CPSPは脳梗塞の直後から現れるとは限らず、数週間から数ヶ月、場合によってはそれ以上たってから現れることもあります。「なぜ今になって」と戸惑われたり、再発ではないかと不安になったりする方もいらっしゃいます。新しく現れた痛みは、関節や筋肉の問題など別の原因で起きている可能性もあるため、自己判断せず主治医にご相談ください。

一般的な痛み止めが効きにくい理由

CPSPは関節や筋肉の炎症による痛みではなく、神経の回路そのものの障害による痛みです。そのため、一般的な鎮痛薬が効きにくいことがあり、神経の過剰な興奮を抑える薬などが検討されます。ただし、どの治療がどの方に合うかは個人差が大きく、薬だけで痛みを完全になくすことは難しいのが現状です。

CPSPの仕組みや、現在のガイドラインで検討されている治療については、院長ブログ〈脳梗塞後、触ると痛い・冷たいものが痛いのはなぜ?〉で詳しく解説しています。

後遺症のしびれは治る?取れにくい理由と経過の特徴

脳梗塞後のしびれは治るのか——これは患者様から最も多く寄せられるご質問の一つです。結論から言えば、「必ず治る」とも「もう治らない」とも言い切ることはできません。改善がみられることはありますが、どこまで、どのくらいの期間で改善するのかは、一人ひとり大きく異なります。

脳の可塑性と神経回路の再構築

脳には、傷ついた神経回路の働きを残された回路が補おうとする「可塑性」という性質があります。この変化は時間をかけて少しずつ進むもので、触覚・温度覚・位置覚など、感覚の種類によっても回復の仕方が異なります。

しびれの改善を感じにくい理由

運動麻痺の場合、「手が動くようになった」という変化は比較的わかりやすいものです。しかし、しびれや痛みの改善は数値化しにくく、患者様の主観的な感覚に大きく依存しています。そのため、明確な改善を感じにくく、「本当に治っているのか」という不安を抱き続ける方も多くいます。

しびれの強さは日によって変わることがある

しびれの強さは、日によって変わることがあります。寒さや疲労、ストレスなどをきっかけに強く感じることもあり、こうした一時的な変化を「悪くなった」「再発では」と心配される方も少なくありません。ただし、これまでとは違う部位にしびれが出た、急に強くなった、力が入らない・ろれつが回らないといった症状を伴う場合は、新たな脳梗塞の可能性があります。その場合は様子を見ずに、「急に現れたしびれは前兆の可能性」を参考にすぐに受診してください。

二次的な要因とリハビリテーション

二次的な要因がしびれを悪化させることもあります。麻痺による筋肉のこわばり(痙縮)や、手足を動かさないことによる血行の悪化が、しびれや不快感を強めている場合があります。これらは、リハビリテーションやストレッチによってある程度和らげられることがあります。

改善を捉え直すことの重要性

しびれの改善を考えるとき、何を「改善」と捉えるかも大切です。しびれが完全に消えることを期待される方も多いですが、現場で多くみられるのは「しびれ自体は大きく変わらなくても、できる動作が増える」という改善です。例えば、歩ける距離が長くなった、細かい作業が少しできるようになった、といった変化です。

「治らないものを必死にどうにかしようと努力するより、良くなったところを一緒に喜ぶ。そうすると、しんどい部分が少しずつ小さくなっていきます。」

感覚の回復経過を示した研究や、発症から年数がたった方の改善例については、院長ブログ〈脳梗塞後のしびれは治るのか?〉と〈なぜ脳梗塞後、手は動くのに感覚が戻らないことがあるのか?〉で詳しく解説しています。回復の時期や「6ヶ月の壁」についての考え方は、〈脳梗塞の後遺症は本当に治る?6ヶ月以降の回復メカニズムとリハビリを成功させる4つの鍵〉をご覧ください。

しびれと向き合うための方法(薬・リハビリ・生活の工夫)

脳梗塞後のしびれに対しては、一つの方法ですべてが解決するわけではありません。薬物療法、リハビリテーション、日常生活での工夫を組み合わせ、ご自身に合ったものを専門家と一緒に探していくことが大切です。

薬物療法の実際

まず知っておいていただきたいのは、一般的なビタミン剤や通常の鎮痛薬は、脳梗塞後のしびれには効きにくいことが多いという点です。そのため、痛みを伴う場合などには、神経の過剰な興奮を抑える薬が検討されることがあります。薬の選択や量の調整には、ふらつきや眠気といった副作用も考慮した専門的な判断が必要です。

リハビリテーションの役割と目標

リハビリテーションは、しびれの改善において非常に重要な役割を果たします。ただし、リハビリの目標は「しびれを完全に消すこと」ではなく、「しびれがあってもできる動作を増やすこと」であることを理解していただく必要があります。

感覚に働きかける方法としては、ミラーセラピーや電気刺激療法などがあります。ただし、これらは効果に個人差が大きく、他のリハビリと組み合わせて行う補助的な方法と考えられています。

中心となるのは、理学療法士や作業療法士による個別のリハビリテーションです。歩行、手の動き、日常動作の練習など、生活に必要な動作を段階的に練習していくことで、しびれがあってもできることを増やしていきます。リハビリの効果に関する研究については、院長ブログ〈脳梗塞後のしびれ・感覚障害にリハビリは本当に効くのか?〉で詳しく解説しています。

日常生活での工夫

日常生活での工夫も同様に重要です。まず、感覚が鈍い部位は怪我や火傷に気づきにくいため、視覚的な確認を習慣化することが不可欠です。入浴時のお湯の温度は、必ず健側(健康な側)で先に確認してから患部を入れるなど、物理的な保護を心がけてください。

また、痛みやしびれは、ストレスや不安、睡眠不足によって強く感じられることがあります。深呼吸や趣味の時間など、心身の緊張をほぐす習慣も役立ちます。これは「気持ちの問題」という意味ではなく、長く続く症状が心身に与える負担を軽くするための工夫です。

感覚が鈍くなっている部位に対しては、さまざまな素材に触れたり、触れた場所を確かめたりして感覚に働きかける練習が行われることがあります。ただし、触れると痛みが出る方の場合は逆効果になることもあるため、自己流ではなく、医師やリハビリスタッフの指導のもとで行ってください。

総合的なアプローチの重要性

重要なのは、一つの方法が全ての患者様に効果的なわけではないということです。薬、リハビリ、物理療法、生活の工夫、心理的ケア、これらすべてを試してみて、ご自身に合ったものを選択し、組み合わせていくことが重要です。その過程で、医師やリハビリスタッフといった専門家と連携し、一緒に改善の道を探していく姿勢が欠かせません。

急に現れたしびれは前兆の可能性|TIAと受診の目安

脳梗塞の既往がある方が、急に新しいしびれや脱力を感じた場合、それは後遺症の一部ではなく、新たな脳梗塞が起きている可能性があります。自己判断で「いつもと同じ」と放置することは非常に危険です。

新しく出現したしびれと既存の後遺症を見分ける最も重要なポイントは、「突然の発症」と「これまでと異なる部位や性質」です。例えば、右手にしびれがある患者様が、突然左足にしびれが出たという場合は、新たな脳梗塞の可能性が高いと言えます。また、いつもより強い痛み、急激な脱力感、顔のゆがみ、ろれつが回らない、視力の異常といった症状が伴う場合も注意が必要です。

TIA(一過性脳虚血発作)の危険性

TIA(一過性脳虚血発作)という概念を理解することは非常に重要です。TIAとは、脳血管が一時的に詰まるものの、数分から24時間以内に症状が完全に消える現象です。症状が消えたからといって、それは「問題がない」という意味ではなく、むしろ「血管が詰まりかけている危険信号」なのです。TIA後90日以内に脳卒中を発症するリスクは最大で17.8%(約6人に1人)にのぼり、そのおよそ半数はTIAから48時間以内に起こると報告されています(出典:米国心臓協会(AHA)Scientific Statement, Stroke. 2023;54:e109–e121)。つまり、症状が一時的に治まった場合こそ、緊急性の高い受診が必要なのです。

FASTチェック方法

脳卒中の早期発見と対応には、「FAST」という簡単なセルフチェック方法があります。Face(顔のゆがみがないか)、Arm(腕の脱力・しびれがないか)、Speech(言葉がはっきり話せるか)、Time(発症時刻を確認し、すぐに受診する)の頭文字を取ったものです。これら四つのうち一つでも該当する場合は、迷わず119番通報して医療機関に向かってください。

早期受診の重要性

病院は、病気を治すだけの場所ではなく、「大丈夫であることを確認する場所」でもあります。たとえ検査結果が正常であったとしても、早期に受診して安心を得ることは、心身の健康維持にとって極めて重要です。疑わしい症状を感じたら、ためらわずに医療機関を受診してください。

保険でのリハビリ期間を終えた方へ|当センターの取り組み

保険診療で受けられるリハビリテーションには、原則として発症から一定の期間(脳血管疾患の場合は180日)という算定上の上限があります。いわゆる「6ヶ月の壁」ですが、これは医療制度上の区切りであり、回復の可能性がそこで終わることを意味するものではありません。詳しくは〈6ヶ月以降の回復と「6ヶ月の壁」について〉をご覧ください。保険でのリハビリ期間を終えた方に向けて、当センターでは〈脳卒中リハビリテーションセンター〉で生活期のリハビリテーションも行っています。

当センターの脳卒中再生医療について

当センターでは、患者様ご自身の骨髄由来の幹細胞を院内の細胞培養室(CPC)で培養し、投与する「脳卒中再生医療」を自由診療で行っています。幹細胞治療は、神経を取り巻く環境への作用などが研究されている治療ですが、しびれや感覚障害がどの程度改善するかについては、現時点で十分な科学的根拠が確立しているとは言えません。そのため当センターでは、治療の前に感覚・運動・痙縮などの状態を詳しく評価し、何を目標にするのかを患者様と共有したうえで治療を検討します。

再生医療は単独ではなく、〈再生医療のリハビリ〉と組み合わせて行います。しびれを消すことだけを目標にするのではなく、動作の改善を通じて、日々の生活のしやすさを高めていくことを大切にしています。治療に伴うリスク・副作用や費用については、〈リスク及び副作用について〉、〈治療の流れと費用について〉のページをご確認ください。

脳梗塞を経験した医師として

当センターの院長自身も脳梗塞(右小脳梗塞)を経験し、リハビリに取り組んできた医師です。数値に表れにくいしびれや痛みのつらさを、医師としての知見と当事者としての経験の両面から受け止め、お一人おひとりに向き合っています。院長自身の経験については、院長ブログ〈医師の僕が脳梗塞になった|右小脳梗塞・歩行障害・リハビリを経験して分かったこと〉でご紹介しています。

当センターでは、患者様お一人おひとりの状況に応じた「カウンセリング」を完全予約制で行っております。院長との1~2時間の対話を通じて、再生医療が自分に適しているか、どのような治療プランが考えられるかを詳しくご説明します。ご相談をご希望の方は、〈診療予約・ご相談〉よりお問い合わせください。

まとめ

脳梗塞の後遺症として現れるしびれは、周囲に理解されにくい苦痛です。回復の経過には個人差がありますが、その仕組みを知り、ご自身に合った対処法を選んでいくことで、日常生活の困りごとを減らしていくことは目指せます。

大切なのは、ご自身のしびれがどのタイプに近いのかを知り、医師に正確に伝えることです。特に、何もしなくても痛みが続く場合などは、中枢性脳卒中後疼痛(CPSP)の可能性があるため、専門的な診断が必要です。

薬物療法、リハビリテーション、物理療法、生活の工夫——いずれも選択肢の一つですが、最も重要なのは、どの方法が自分に適しているかを、専門家と一緒に探っていくプロセスです。個人差が大きい領域だからこそ、諦めず、時間をかけて向き合う姿勢が欠かせません。

突然新しいしびれが出現した場合は、決して放置してはいけません。再発の可能性を視野に、迷わず119番通報してください。

一人で抱え込まず、医師やリハビリスタッフといった専門家に相談し、自分に合ったケアを見つけていく。その積み重ねが、生活期を前向きに過ごすための大切な一歩になります。

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